金属製・窯業系サイディングを使用した災害に強いヘリ格納庫
ニチハ
和歌山県内初のドクターヘリ格納庫を手がけられた経緯についてお聞かせください。
𠮷田
ドクターヘリは通常、和歌山県立医科大学附属病院の屋上で待機していますが、台風などの場合には約20分かけて神戸空港に退避していました。そこで、病院から約5分の場所に格納庫をつくることになりました。悪天候時も県内待機が可能となり、天気回復後にすぐに出動できるので、救命救急能力の向上が期待できます。
ニチハ
なるほど。とても意義のある施設ですね。外壁に弊社の金属製・窯業系サイディングを採用いただきましたが、そのきっかけや決め手は何でしたか。
木造とサイディングの融合が美しい仕上がりに。
増田
最初は角波鉄板やALC板なども検討していましたが、木造の公共施設ということもありコストやメンテナンス、耐久性を考えた時にサイディングがバランスが良い選定と考え、採用に至りました。
脇村
悪天候や災害からヘリを守るというのが今回の格納庫建設の大きな目的です。強風や地震にも強いつくりにするためには建物自体の軽量化が有効なので、木造トラス構法を採用しました。
増田
トラス構法で20mのスパンを飛ばしているので、構造への自重負担軽減のためにも軽量である金属製サイディングをメインに使用しています。意匠に変化をもたせたかったのと、ヘリコプターを引っ張る「リフター」を常駐させることで耐火性能も求められるため、窯業系サイディングも併用しました。
ニチハ
選ばれたサイディングはシャープな印象のものですが、デザインのポイントなどはありますでしょうか。
格納庫の外側を囲うようなブルーがアクセント。
増田
格納庫は消防学校の敷地内にあるため、周囲との調和も考えて選びました。周りの建物は金属鋼板の白い建物が多いので、その雰囲気に馴染むようにメインはホワイトにしました。部分的に、県のカラーである海をイメージできるブルーを使っています。
木造×オフセットサイディングで街に森を生み出す
ニチハ
和歌山県では1997年に「木の国プロジェクト」を始められるなど、以前から木材の活用が進んでいるそうですね。全国的に見てもとても早いのではないでしょうか。
安定性の高い木造トラス構造を採用。
𠮷田
そうだと思います。和歌山県は県土の77%が森林だと言われていて「紀州・木の国」を発信するためにも、時代に先駆けて2012年から公共建築物の木造化を推進し始めました。そこから非住宅建築物の木造化促進や、木造・木質化の支援などにも広がりました。木造は仕上がりも綺麗ですし、香りや手触りも良いのでそこが魅力になっていると感じています。
脇村
今回の格納庫には紀州材を約800本使っています。紀州材は強度が高く、構造材としても十分活用できる木材だと確認できていますので、県外の木材との差別化にもなるのではないかと思っています。また、外壁に採用しているニチハさんのオフセットサイディングは、国産の木材チップを使用していて環境に優しいというのがポイントでした。構造材には芯材を使っていて、外壁には間伐材や国産材の端材を使用した木材チップが入ったサイディングを使っているので、森で切った木を使って街に森をつくるようなイメージで、すごく良い形に仕上がったと感じています。
ニチハ
自然の少ない都市部に木を戻していくという意味合いもありますよね。木材利用を推進している和歌山県で使っていただけることを大変嬉しく感じます。
増田
SDGsを設計のポイントにされるお客様も多くなってきているので、今後はオフセットサイディングを提案できる機会がより増えるのではないかと思っています。
木造化・木質化を推進し、和歌山の紀州材の未来を守る
ニチハ
今後の木材の活用について、構想などがありましたら、お聞かせください。
𠮷田
木質化の推進として、和歌山県でもニチハさんのオフセットサイディングに使われている木材チップのような使い方ができたらいいなと思っています。
ニチハ
全国の各都道府県産材木材チップを使うことができたら素敵ですよね。将来的に可能にしていきたいです。ご意見ありがとうございます。
格納庫外観
𠮷田
ほかには、公共建築物を設計するときに、鉄筋コンクリート造だけでなく、木造も提案するようにしています。耐火性能の問題などでなかなか簡単にはいかないことが多いのですが、今後も取り組んでいきたいです。
ニチハ
木造の耐火構造についてまだまだ課題は多いのでしょうか。
𠮷田
木造耐火は法律でも少しずつ緩和されてきてはいますが、準耐火でクリアできないかといった検討をすることもあります。選択肢を広げながら、与えられた条件の中で木造にできる方法を模索したいですね。
ニチハ
SDGsの推進についてはどのようにお考えですか。
和歌山県庁様にてお話を伺いました。
脇村
森林の循環という点でも木材の活用はSDGsに大きく関係します。木を活用することでCO2の固定化ができますし、伐採・植林のサイクルをつくることで山自体の荒廃や山崩れなどの自然災害も防ぐことができます。自然も、町の安全も保つことができるんです。地産地消の意味でも有効だと思います。
𠮷田
大阪万博も控えていますので、県の建物の内装などで木質化を推進して県内外の方に見ていただき、和歌山県の木に関する取り組みや、紀州材の温かみ・香りなどを感じていただけたらと思います。
ニチハ
和歌山の将来のためにも、木材の活用は大きなテーマになっていきそうですね。今回は、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。